カッコいいサステナブルファッションと共に日本の伝統文化を残すー京都紋付 荒川徹さんインタビュー
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荒川徹さん | 株式会社京都紋付 プロフィール
家業の株式会社京都紋付に1983年入社。1996年代表取締役社長に就任し、2001年平成21年度伝統的工芸品産業功労者経済産業省局長賞を受賞。入社時より京黒紋付を染めているだけでは、生活スタイルの変化に対応できず衰退する危機に不安を抱えながら事業を進めてきました。現在は、自社の強みを生かした黒染めによる衣類のアップサイクル事業を展開し、事業の多角化を図っています。
「What’s 黒染め?」
ー黒染めと聞くと毛染めを想像される方が多いと思いますが、荒川さんが行っている『黒染め』というものはどういったものなのでしょうか?
株式会社京都紋付 代表 荒川さん(以下荒川):私たちは着物の業界に属しています。
皆さんの馴染みの深いところで言うと、歌舞伎役者の紋付袴、相撲取りの優勝祝賀パレードの時の黒紋付、もう一つはお祝い事で言うと天皇陛下から勲章を受けられる時の黒紋付など、そのような時にお召しになる黒紋付を染めています。黒を専門に1915年明治、祖父の時代から100年間ずっとやっています。
ーすごく歴史を感じます!黒染め、という言葉は黒紋付以外を染める際にも使いますか?
荒川:洋服を染め始めたのは2000年ぐらいからなので実際、京都の着物業界で黒染めといえば紋付を染めている業種です。
黒の評価というのは、いかに黒く染めるかが大事なんです。例えばお葬式の時に色んな人が並んでいて色々な紋付やブラックフォーマルを着ておられると薄い黒と濃い黒の差が歴然とわかります。並んだ時にその価値が初めてわかる。私たちは100年の間、黒しか触っていないので黒に対するこだわりが強く、いかにムラなく綺麗に、色落ちせず黒く染めるということがモットーなんです。
ーなるほど。海苔みたいな感じですね。笑
私、海苔が好き過ぎていかに黒いかで選ぶんですよ。単品で見るとよく分からないけれども並んでいるとよくわかるので。そういうことなのかなと思いました。
荒川:私今60歳過ぎで20歳ぐらいからこの仕事をしているのですが、初めて海苔みたいというフレーズを聞きました。使わせてもらいます。海苔を通じてそこまで知ってもらった方は初めてです!笑
海苔を明日から毎日食べます。業界に貢献します。
黒紋付以外に洋服の黒染めを始めたきっかけとは?
ー代々、伝統的に紋付の黒染めを行ってきたのに、なぜ洋服の黒染めを始めたのでしょうか?
荒川:伝統的な芸能ごと(京都の芸妓さん舞妓さん、歌舞伎役者、宝塚の卒業式など)は全部黒紋付をお召しになるんです。
昔は年間300万反染めていた業界が生活様式の変遷で今は5000反になり、昔は100以上あった事業所も現在では3事業所まで減少し、組合は今年には解散してしまう予定です。そうなると伝統的な芸能ごとにお召しになる衣装が伝統的技法で作れなくなってしまう。それを絶対に防がなければならないと考えました。
私たちの黒に特化した技術をどのようにして世の中に残していくか、そのためにはもっと黒染めの技術を認知していただく必要があると考えました。そこで、着物から洋装業界にシフトしました。黒染めを知らない、色々な有名ブランドに提案したところそれが評価されて有名アパレルブランドとのコラボが始まったんです。それが洋服を染めたキッカケです。ISSEY MIYAKE HaaT、Vivienne Westwoodなど国内の色々なアパレルブランドとコラボしています。
ーすごい!カッコいいですね。それは布を染めるということですか?
荒川:染める時に反物を染めるというのと製品を染めるというのと両方染め方があるんです。私たちは製品にしてから洋服を染めるという方法でやっています。それが後々にアパレルブランドとコラボするだけではなく、今やっているSDGs絡みの事業にも活きているんです。
黒染めとSDGs
荒川:実態として私たち祖父の時代から黒染めをやっている時に、今のSDGs絡みの事業に発展するヒントを得ていたんです。着物を扱っている小売店様から、消費者の方が『汚れた服を染め替えしてもらえませんか?』と要望されることが度々あるということで私たちに洋服の染め替えの依頼がありました。
メインのビジネスではありませんでしたが、実は40年程前の父の時代から汚れた洋服を黒染めして再生するということを少しやっていたんです。今ではそれを大きなビジネスとして洋服を廃棄せずにアップサイクル(衣類の再生)するということに取り組んでいます。
KUROZOME REWEARのきっかけ
キッカケは2013年にあり、消費者から衣類の染め替えを受注するシステムを作り上げようと決定して動き出しました。折しも、博報堂さんから弊社に連絡があり、『古着の大型リユースショップであるセカンドストリートと環境保全団体であるWWF JAPANが衣類を廃棄するのをやめて廃棄される衣類を黒染めでアップサイクルするという事業をプロモーションするので、そのための受け皿になってもらえませんか?』とご依頼があったんです。
そして、その年の秋に東京デザイナーズウィークというイベントでWWFがブースを作ってそこを京都紋付の製品でプロモーションしたいというお話をいただき、これはチャンスだと思ったのでイベントに参加し、その内容のプレスリリースをかけました。その後、その会場に取材に来られていたワールドビジネスサテライトなどが特集を組んでくれたんです。今現在で30局以上の取材を受けています。
このビジネスは、やっていることは黒染めで再生するだけですが、そこには弊社なりのノウハウをつけて色々なスキームで展開させようと思っています。
ー面白いですね。たくさん取材を受けられる中でどのようなところが注目されているポイントだと思われますか?
強みは「黒」と「カッコよさ」
荒川:弊社の強みは100年以上黒しかやっていないところです。もう一つは、SDGsを全面に出し過ぎていない。その前に衣類をかっこよく再生させたいという想いがあるんです。かっこよく再生したけれどもその背景にはSDGsがきちんと押さえられている。まずはSDGsが良いですよではなく、消費者に受け入れられるかっこいいものを作らなければいけない。
ー本当にそうですよね。最初入りがSDGsとかサステナブルとか言われるとなんだかスッと入ってこないけれど、『これすごくかっこいい!』と思って見たものが実はサステナブルなアイテムだったと気付いた時に嬉しくなります。
荒川:私たちは2013年から始めてあらゆる繊維を染めさせてもらっているので、そこでまた発見があって。黒染めをする時に天然繊維を染める染料を使うんです。衣類は天然繊維100%ではなく、あらゆる衣類(プリントがしてあったり、自主加工してあったり、ダメージ加工してあったり)があります。それを黒染めすることによって真っ黒にならずに全然違った表情に生まれ変われるんです。それがカッコいい!
ブランドとコラボした新たなデザインへの挑戦
荒川:たまたまやってみたらカッコよくなっている衣類がたくさんあるので、デザイナーが最初から衣類を作る時に染め替え後のデザインを意図して洋服を作ろう!ということになりました。例えば、最初は赤いジャケットだけど黒になった時に赤い柄が残っているとかポリエステルの赤い部分は染まらないとか黒がムラになるとか。
色々な表情に変化できるので、その変化できることを意図して洋服を作ると消費者は一つの衣類で2回楽しめるんです。そこからもう一つ仕組みがあって、それをビジュアル化するのに洋服の下げ札に『この商品は染め替え可能です。』という表示をします。その裏側にQRコードを仕込みます。それを読み込むと染めた後の真新しい商品のデザインを写真で見ることができます。消費者は衣類を2回楽しめますし、販売している会社は1つの衣類で2回商品を楽しんでもらえて廃棄削減に繋がるんです。
そしてもう一つ仕組みがあって、弊社だけで染めるのではなく、もっと世の中に広めたいということで、染め替えを取り次ぐ代理店を募集しています。その代理店には成果報酬型アフィリエイトの仕組みで、染め替えを募集していただいた方々にキャッシュバックするモデルを考えました。下げ札の裏側にもう一つQRコードを付けて最初の商品を販売している会社に染め替えの代理店となっていただき、その代理店の申し込みの染め替えのページに飛ぶようにしておきます。その衣類を販売している会社は、1回目の販売利益と2回目の染め替えからも利益が得られるというスキームを作っています。(染め替えはどこでやっても同じ価格になるように統一しています。)
代理店制度でみんながSDGsnに貢献できる仕組み
ー面白いです!そのアイディアは荒川さんが考えられたんですか?
荒川:そうです。この代理店という仕組みは、現状でしたら大手の百貨店、大手の通販会社、大手のアパレルなど様々な業種でやってもらっていますし、それ以外の一般企業、例えば上場企業でしたら1000人、5000人、10000人と社員がいますよね。そういう会社が自分の社員向けに『服を捨てるのをやめよう!再生しよう!』ということで代理店になってもらうんです。
社内向けにバナーを貼ってQRコードやURLを作って社内向けに広報してもらうんです。大手の企業でしたらSDGsの貢献で利益がいらないとのこと。社員の方は少し安くオーダーでき、企業様は社員の衣類の廃棄を削減するというスタンスでSDGsに貢献できますし、社員さんは今まで大切にしていた黄ばんだ衣類や汚れた衣類を黒染め再生して、また楽しむということができるのでとても喜んでくださっているようです。
荒川:実は今年の9月6日(クロの日)にディープエアーという協会を起ち上げます。この協会は私たちだけではなく、私たち以外に色染めで再生している業者にも入会していただいて、できれば私たちが開発した染め替えの受注システムを全部サブスクでも低価格で供与して私たちと同じような仕組みを伝えていただきたいと思っています。消費者が発注しやすい状況をつくって染め替えの概念を世の中に広めていきたいです。
第2弾では黒染めを広めていくための仕組みや荒川さんが目標にしていることをお伝えします。