絵本を通して木育を感じる「森のとびら」著者 伊藤真理子さんインタビュー

木育絵本「森のとびら」の著者 伊藤真理子さん

1979年川口生まれ。2004年より”ますいいリビングカンパニー”に勤務。同社のギャラリー管理人として様々なアーティストと関わる。
文章を書くことをライフワークにしており「SHINBIYO」「俳句雑誌紫」など連載コラムや埼玉文芸入選などの経験もある。

現在はラジオFM川口『ギャラリーカフェ結び』のDJとしても活動中。

子供の成長と仲間がテーマの木育絵本「森のとびら」

絵本「森のとびら」とは【生命のリレーを楽しく学べる木育絵本】です。
おじいちゃんからもらった木のおもちゃ。
「日本の木で作ったおもちゃはとっても良い」
そう言ってたけど、何が良いんだろう???

ゆーくんが悩んでいると、木のおもちゃ(ツンツンとモコモコ)が動き出す。
皆さんも、ゆーくんと一緒に“木の世界”を案内してもらいましょう。
ツンツンとモコモコが明るく楽しく解説してくれます。

私たちと木の関係性、その役割や恩恵などを考えるきっかけにもなります。
原作が紙芝居なので“読み聞かせ”にも向いている絵本です。

ー真理子さんこんにちは。本日はどうぞよろしくお願いします!早速ですが、この本のベースになっている”木育”とは何なのでしょうか?真理子さんの考える”木育”を教えてください

木育には大きく二つの目メッセージがあると考えています。

  • 一つ目が、木があることや触れることで感じる心地よさを伝えること!
  • 二つ目が、きちんと木や自然に「恩返し」をすること!

心地よさと恩返しを両方伝えていくことが、私の考える木育かなと思っています。

ーなるほど。すごく素敵ですね。木って少なからず身の回りにあるものなのに、心地よさは感じても恩返しを気にしたことはありませんでした。真理子さんがそもそも木育に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?

最近別の取材で聞かれて何故かなぁと考えていて気づいたのですが、きっかけは学生時代に遡ると思います。実は大学生のころに沢登りやクライミングをしていて、山にばかり行っていました。
山に登るといつも元気が湧いて、生きるパワーをいただいてました。
木育にすっと感心が深まったのは、そんな理由からかもしれません^_^

ーおぉ、沢登りやクライミング!かっこいい!過去の経験が今の活動に活かされているのはとても素敵ですし、真理子さんにとって自然の流れだったのだなと感じます。

森のとびら制作のきっかけ

ーでは今回木育について書かれた絵本制作のきっかけについて教えてください

きっかけは、雑誌「ちるちんびと」でした。その雑誌の中で「工務店の会」という集まりがあり、その会に所属している建築会社さんは、日本の木を使ったり、化学物質検査が微量であるという検査をした身体に良い素材を使った家づくりをしています。

その会の中で「日本の木を使うことの良さ」をみんなに知らせよう!という取り組みを行うことになり、イベントで使う為に制作したのが最初のきっかけです。

ー実は木育という言葉を初めて耳にしました

そうなんです。「木育イベントをやるんだー」という話をお友達にしたところ、「木育ってなに?」という返事が返ってきました。一般的にはまだまだ知られていないのですが、木育は工務店さんの間ではずっと昔からある言葉で、奥が深く、熱い想いを秘められているということが分かり、私も様々なことを教えていただきました。

私が感じた思いを、小学校3年生の息子に伝えようとしたのですが、「木育と自分に何の関係があるの?」と言われてしまい、うまく伝わりませんでした。身近に木や森がない環境で生活している子どもたちが多い中で、小学生でもわかる「日本の木を使うことの大切さを伝える方法」を考えた結果、絵本を作ろうということになりました。絵本は 2021年の9月に書き始め、木育実行委員の方にも確認していただきながら進め、完成まで4ヶ月かかりました。実は3回描き直してます。笑

ーそうだったのですね!正しく分かりやすく伝えるということはとても難しいと思いますが、小学生にも伝わる絵本であれば私たちも感じることができます!笑。普段木に関わることがなく、小学生と同じ知識レベルなので、この絵本はとても伝わりやすかったです。

「木育(もくいく) 」の取組は全国で広がっており、木のおもちゃに触れる体験や木工ワークショップ等を通じた木育活動や、それらを支える指導者の養成のほか、関係者間の情報共有やネットワーク構築等を促すイベントの開催など、様々な活動が行政や木材関連団体、NPO、企業等の幅広い連携により実施されています。
林野庁においても、子どもから大人までを対象に、木材や木製品との触れ合いを通じて木材への親しみや木の文化への理解を深めて、木材の良さや利用の意義を学んでもらうという観点から、木育の取組を推進しています。 林野庁ホームページより

絵本を朗読してくださった真理子さん

日本の木の問題

ー日本の木材をずっと見られている中で、真理子さんが問題だと感じられている点を教えてください。

日本の問題を私が語るのはドキドキしてしまいますが。笑

私が勤務している ”ますいいリビングカンパニー”は元々は輸入の木材を多く使っていました。日本の木を使いたいという思いはあったものの、なかなか踏み出せずにいました。そんな時、雑誌「チルチンびと」の会に入り、日本の木を使う取り組みについて学びました。弊社のお客様に「チルチンびと」のファンの方が多く、考え方が似ていると感じたのもチルチンびとの会に入った理由の一つですが、結果として日本の木を使うきっかけとなりました。

ー昔から輸入木材に頼っていたのでしょうか?

いえ、そもそも日本は木がたくさんある国なので元々は国産の木を使う風土がありました。しかし戦争で山が焼けてしまい復興しなければいけない、という事をきっかけに日本を木を使わなくなりました。現在は復興され、木も森も元どおりになっているにも関わらず、輸入の木を使い続けているという現状があります。

ただ、近年のウッドショックで輸入の木が入手しづらくなってしまい、日本の木を使わなければいけないという現状があります。これまで「安い」という理由で輸入の木を使用していたケースからの切り替えが必要な企業はとても大変だったと聞いています。

ーなるほど。日本の未来を考えた取り組みが、結果として会社のためにもなった、ということですね。森の管理をする人が少ないと聞いていますが、日本の木を使うことになり、整ってきているのでしょうか?

現状まだ林業との連携はあまりとれておらず、踏み込んだ問題には斬り込めていません。ただ、奈良の吉野の山の見学で樹齢120年の樹の伐採に立ち合わせていただきました。とても神聖な現場で「こんな木を使わせていただいてるんだ」と、とても心に響いたことを覚えています。その経験は木を深く考えるきっかけとなっています。

今後の日本の建築と木材はどうなる?

ーこれからの日本の建築と木材はどうなる?ということについてお聞きしたいです。

よく言われているのは、今ウッドショックで日本の木を使っていますが終わった後にまた輸入木材に切り替わってしまうのでは?という事です。また今日本の木をたくさん使っているので林業の方の手が追い付かない、という新たな問題で起きています。木を使うことで起こる問題点を含め、再度現状を見直し、木に関わる人々みんなにとって良い循環を作っていくことが大切だと感じています。

住宅におけるサステナブルとは

ーサステナブルな家を作っているということですがどのような特徴があるのか教えてください。

今作ろうとしているモデルルームは「LCCM住宅×パッシブ住宅」というコンセプトの住宅です。LCCM住宅とは建ててから廃棄するまでのエネルギーがマイナスになる住宅のこと。パッシブ住宅とはもう少し自然に近いものとして、太陽、風、影などを利用して涼しくし、消費エネルギーを減らす工夫をしている住宅のことです。

ー昔の知恵みたいなものですね!面白いです。すでに建築に取り掛かっているのでしょうか?

現在設計中で、来年の1月を目処に竣工の予定です。住宅を通して自然やエネルギーについて学べる機会になると思いますのでぜひ遊びに来てください。

ーサーキュラーエコノミーのために私たちができることを教えてください。

パッシブ住宅の考え方で良いと思います。植物でひさしを作ることで、夏は植物が生い茂って日差しを防いでくれるので涼しくなるし、冬は植物が枯れたくさんの陽が差し込むので暖かくなる。グリーンを求める方も多いので癒しにもなる自然の力を利用した工夫がサーキュラーエコノミーにつながります。

ーなるほど!マンションで使えてオシャレなアイテムがあれば取り入れてみたいと感じる方が多そうですね。

循環経済(サーキュラーエコノミー)とは、従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すものです。

環境省ホームページより引用

ー最後に真理子さんが伝えたい事を教えてください。

みなさんがそれぞれ思った事を小さなことからやってみるといいのかな。例えば、DIYをする時には日本の木を探してみる、とか植物を買う時に地元で育ったものを購入する、間伐材で作ったおもちゃを使う、など一人一人が考えて「皆がやる」ことが大切だと考えています。

終始和やかな様子でした!

インタビューを終えて

とても柔らかい雰囲気で優しい真理子さん。所々「私が回答していいのかな」と謙虚さを覗かせつつも日本で日本の木を使うことの大切さや問題点をしっかりと教えてくださいました。一人一人が木育インフルエンサーとなり、ゆるくても考えて行動してみることがとても大切。楽しく今日から始めよう、Let’s 木育

◆タイトル「木育絵本-森のとびら」について
本書のタイトルは、チルチンびと『森のとびら』というイベント名が由来となっています。
十月八日【木の日】を中心に、チルチンびと「地域主義工務店」の会が、全国木育イベントを開催。
そのイベントこそが、この絵本の生まれるきっかけとなりました。

※LCCM(エルシーシーエム)(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅とは、建設時、運用時、廃棄時において出来るだけ省CO2に取り組み、さらに太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出により、住宅建設時のCO2排出量も含めライフサイクルを通じてのCO2の収支をマイナスにする住宅です。

国土交通省ホームページより

インタビュアー:りか ( Instagram

ゲスト:伊藤真理子さん( Instagram / Mギャラリー公式HP/ ますいいリビングカンパニー公式HP

ライター:りんこ( Instagram / COCOL公式 Instagram